パイグ語の韻母史を再整理する

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0. パイグ語の音節には、歴史言語学的な要員による隠れた phonotactic constraint があるのでは?

パイグ語・古パイグ・燐字などについて考察する」は 2017年11月に書き始められた。2017年11月5日に「古パイグ」の体系が整理され、それをまとめ上げるために当リポジトリが書き進められていった。

さて、そこから 8 年半が経ち、語も増え、紙辞書も刷られ、

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— はすじょい (hsjoihs) (@hsjoihs) May 16, 2025

そこからさらに 1 年が経った。合計すると 9 年半となる。

ということで、一念発起し、「そもそもパイグ語ってどういう音節が許されると見ると筋がよいんだろう」というところを確認したくなってきた。すると、かなり面白い話が自然と浮かび上がってきたので、ここに詳細を掲載し、見えてきた結論だけをメインの考察スレッドに書くこととする。

1. 「上昇二重母音 + 鼻音」の音節が乏しい → 介音 i って元来開音節にしかならないのでは?

hsjoihs — 2026/05/16 13:24
「上昇二重母音 + 鼻音」の音節が現状【生】と【口】しかなくてそれ以外全て抑制されてるのって何なんだろうなー
給 gěi みたいな、本来は体系上ありえないけど頻用語すぎて変なことが起きてるパターンなんだろうか

hsjoihs — 2026/05/16 14:27
iak1 は y1 ak1 の縮約による後起字音だから除くとして、
ian1 iam1 iat1 の類は元来は声母であってそれが現代語で介音 -i- と区別できなくなったものなんだろうな

hsjoihs — 2026/05/16 14:39
借用 siet1, 縮約 kiak1, 縮約 liok1 を除くと、-iV{p/t/k} は niep1 と niek1 しか残らない。
niep1 は韻図乱択だから良く分からんが、niek1 は nyeka なので、この -i- はこれまた元来は声母と見なすことができる

すると、-iV は開音節のみになる

2. その観察をもとに、再整理

以下、鼻音の総称として大文字 N で、-{p/t/k} の総称として ʔ を用いて略記する。

この路線を推し進めた結果、そもそも元来パイグ語の韻母というのは

- / -N / -ʔ / u- / u-ʔ / i- というテンプレートに Y / U / I / Ə / E / Ɛ / O / Ɔ / A という 9 母音を当てはめたもの

であったのではないか、という重要な仮説が立った。

hsjoihs — 2026/05/16 14:59
要するに、元来こうなのではないか?


SY — 2026/05/16 15:20
ありそう〜
e, eiだけなんとかならんかなって感じだけど

hsjoihs — 2026/05/16 15:24
それについては「ei が音節末に来る時以外は e に合流」としていたはず 
つまり、こう書くべきですね


hsjoihs — 2026/05/16 15:33
音節末でありながら uei1 が ue1 になっているが、これは【万】一語しか観測できていないのであんまデカいこと言えない

3. 9 母音体系

3-1. 前日譚:アイル語における 9 母音体系

アイル語の伝統的な表記は語末に母音字の列がかなりズラズラ並ぶことが知られているが、これは「⟨a⟩, ⟨e⟩, ⟨i⟩, ⟨o⟩, ⟨u⟩, ⟨ai⟩, ⟨au⟩, ⟨ei⟩, ⟨ou⟩ で表記されてしまっている 9 種の母音を 3 個まで並べることができる表記」と見るべきであろう、と 2025 年 4 月 30 日に hsjoihs が提案している。

hsjoihs — 2025/04/30 17:32
タイ語のカスのラテン字表記でこういうの見たことありますよ

hsjoihs — 2025/04/30 17:34 パイグのラテン字(およびリパーシェ)転写とか考えるに、こういうタイ語風の 9 母音を表記している可能性はあると思っている hsjoihs — 2025/04/30 17:53 こんなふうな体系を考えると、パイグ・タカン・バートの転写それぞれと部分的に互換性があって筋は通りそう SY — 2025/04/30 17:57 ai auが二重母音の話者とei, oに合流している話者などがいそう meloviliju — 2025/04/30 17:58 方言やら条件やらで大まかな法則しかわかりません!くらいに開き直りたさある hsjoihs — 2025/04/30 18:03 祖体系が「9 種母音を語末に 3 連まで許す」という珍妙な体系で、子孫での諸変種はその不安定な体系を思い思いに潰していて険しい、とするのが現実的な救済案かなぁ~ meloviliju — 2025/04/30 18:05 あるいは今知られている中ではどこにも残っていない子音があった、とかも夢はある(なお現実性) Μίττον — 2025/04/30 18:07 「今手元にあるデータが示唆しない変化は仮定しない」が歴史言語学の基本原則だからなあ〜 hsjoihs — 2025/04/30 18:06 表記は古いのをずっと引きずり続けていて、古いがゆえにパイグ・タカン・バートとの照合も結構上手く取れて、ところで現実は規範フランス語が覇権取る前のフランス諸方言みたいに官民迷う潰れ方、とかかなぁ hsjoihs — 2025/04/30 18:10 「語末にだけ母音字がズラズラ連なる珍妙な体系」であることからはもう逃れられないので、「『語は母音を語末に 3 連まで許す』というただでさえ珍妙な体系であるだけでなく、9 種の母音を 5 種の字で書いてしまったせいで極めて苦しい綴り字になってしまった」ぐらいしか出せる案がない

3-2. パイグ語における 9 母音体系

2026 年 5 月 16 日にパイグ語の「再整理」を行い、解釈(以下に再掲)を与えていたとき、hsjoihs の脳内では当然この 9 母音体系の話が意識されていた。

その後、2026 年 5 月 19 日に hsjoihs が「オートマトンと形式言語理論」の収録を終わらせ、Μίττον がそれを祝賀するために東京に来訪し hsjoihs 宅で宿泊した際に、この手の話をした。


-uauʔ を現状欠いていることについて、Μίττον は「たしかに(そこにさらに声母が付いたときを考えると)現代パイグは CGVGC を許さないっぽいように思えて、パイグ語に容認可能な音節の限界を超えているように感じられる」と主張した。

hsjoihs — 2026/05/20 9:35
Μίττον と話し、母音が割れた際に、eiʔ が耐えなかったのと同様に uauʔ も耐えなかったのだろう、という気持ちになった


SY — 2026/05/20 9:37
中母音一般の現象というわけか

hsjoihs — 2026/05/20 9:41
auʔ は耐えた (ミニマルペア:hauk1 vs. hok1) けど uauʔ が耐えなかった、という主張です 

SY — 2026/05/20 10:00
あそうか

4. 時の流れに従って 9 母音体系がどう崩壊していくか

4-1. 共時と通時

ということで、uOʔ と uƆʔ が後に合流したことを踏まえ、表はこうなった。

SY — 2026/05/20 10:20
とりあえず共時的分析をすると
介音iは末子音を拒み、介音uは鼻音韻尾を拒むというのは言えそう
iVの列は右端のほうが綺麗じゃないかな

SY — 2026/05/20 11:07
ueiってueになったんだっけ

hsjoihs — 2026/05/20 11:07
例が【万】のみ

SY — 2026/05/20 11:08
あー

hsjoihs — 2026/05/20 11:11
【万】がそうであるということだけが分かっている
しかし数詞が散発的な挙動を見せることってあるからなぁ uei → ue を所与のものとして強く信じてはいません

SY — 2026/05/20 11:14
ならなおさらueiが埋まるべきな気がする

SY — 2026/05/20 11:30
結構介音はNに抵抗するんだな

hsjoihs — 2026/05/20 11:32
「介音は N に抵抗する」の理由説明はこれで行えている


hsjoihs — 2026/05/20 11:33
というか、それを説明するために用意した仮説

SY — 2026/05/20 11:33
そうよね

4-2. なにゆえ一部の合流が起こるのか

SY — 2026/05/20 11:43
こいつらがどっかのタイミングで合流してるわけよね
iE iƐ
Ən Ɛn
Əʔ Ɛʔ
uƏʔ uƐʔ
uƆʔ uOʔ

iE iƐは母音割れ前のほうが起きやすそう

SY — 2026/05/20 12:14
末子音あり環境で母音が割れなかったために合流が誘発という線はありませんか

hsjoihs — 2026/05/20 12:14
そうなんですよね 開音節を先に割ってみるか

SY — 2026/05/20 12:16
タカン語牌音で閉音節の場合短母音、開音節では二重母音なので説得力がある

hsjoihs — 2026/05/20 12:18
わかるなぁ

hsjoihs — 2026/05/20 12:31
普通にそれが正解ですわね


SY — 2026/05/20 12:33
jej jajよりiE iƐのほうが合流しやすそうだけどどうなんだろ

hsjoihs — 2026/05/20 12:34
そんな気もしてきた
まあでも二重に j で挟まれてる環境で jaj [jæj] と jej [jej] が合流するルートもありそうなので「どちらであるかの証拠が足りない」でいきたい

SY — 2026/05/20 12:39
それもそんな気がするが、タカン語牌音がjaiを持たないのが証拠になったりしないだろうか

hsjoihs — 2026/05/20 12:40
たしかにタカンで観測できるのか

SY — 2026/05/20 12:41
まあタカンの見ている字音が傍流の可能性もあるけど

4-3. 表を埋める

ということで、Google Spreadsheet「古牌データ」をもとに、新たに整理し直された - / -N / -ʔ / u- / u-ʔ / i- の体系のもと整え直すと、こう。

ちょうど -UEK の例になってくれる「残」は今回新たに古牌に収録。

hsjoihs — 2026/05/20 13:35
【残】ってアイル tweikou だから -UEK の例になってくれていそうだな

SY — 2026/05/20 13:40
> meloviliju — 2024/08/29 3:48
> 【残】tuek
言及がある

hsjoihs — 2026/05/20 13:41
はい 「E であるか Ə であるかを確認するために」アイルを見る必要がありました

SY — 2026/05/20 13:41
あーそういうことね

4-4. 軟らかい声母 ź x ń j

先ほどのテンプレート上では作られることのない【生】【口】【冬】【杯】【連】を救済するために考えた「声母としての j- ń-(かなり早期から介音 -i- と区別がつかなくなっていたが、「テンプレート」成立時はそれよりも古く、当時は声母であった)」が古牌拼 sri- にも適用できるという極めて良い結果が得られた。

hsjoihs — 2026/05/20 13:59
現状 uƆʔ が accidental gap で、iƐ は体系として欠いていて、載らないやつは sri- ni- i- の 3 つに集中しているので「これはそういう軟らかい声母」と見ることにかなりの合理性がある


SY — 2026/05/20 14:26
sri ni iの声母が他の韻と結合しない理由を説明する必要があるかも?(観測されてないだけ?

hsjoihs — 2026/05/20 14:33
これは別に説明要らないと思います
見かけ上 i を含むせいで今回の分析の表の体系に載らないが、それが「声母本体が軟らかいせい」であると説明がつくのがうれしい、という話なので。

【意】は古牌拼 sria であり、由来としてのどれであるのか知らんが、知らなくても別に困らない、という。

nyautu > -ṇautu とかの ɲ にまつわる現象はいろいろあるので ny- は立っているべきだろうしな

SY — 2026/05/20 14:35
マッピングとしてはsri → xか

hsjoihs — 2026/05/20 14:37
そうね

hsjoihs — 2026/05/20 14:39
てなわけで、声母を ∅ / p b m / c s z / ź x ń j / t d n l / k g h と分析してみている
https://docs.google.com/spreadsheets/d/1QPfAns8wZltbrlxElyog7sJa7Q8dnpGppjuIarypozw/edit?gid=970702096#gid=970702096

4-5. 【尻】

先ほど、「現状 uƆʔ が accidental gap で」と述べた。それを踏まえ、hsjoihs はアイルの stale の中から -wau{t/d}- 辺りで欲しそうな単語を探しに行った。

hsjoihs — 2026/05/20 14:23
【豆】qoda.ar : -UOT > -uot
【球】cwelo.ar : -UƏT > -uet
【深】daute.ar : -ƆT > -aut

だから、stale を見ると、pwauda「臀部、尻」辺りが -UƆT > -uot の例になってくれそうだな
> hsjoihs — 2024/09/10 3:39
> nautuhomá e の先頭部分は ekághi(軸の口)、末端部分は「軸の尻」とかだと思うんだよな
> 
> みっとん「はいはいはい」
> みっとん「口なら尻か」
ちょうど「尻」ほしかったんだよな

SY — 2026/05/20 14:27
まあpuot(012)かなあ

hsjoihs — 2026/05/20 14:34
まあやはりそうですよね
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