2018年2月26日の午前1時辺りから、バート語・アイル語・パイグ語古音の間の語頭子音について考察を始めた。現在ちょうど3月4日の午前1時辺りなので、ここ6日間の考察で得られた結果についてまとめることとする。
()は補足情報、[]は「具体例やデータが現状存在しないけど、この形で存在しうると仮定して構わないだろうもの」、{}は「稀な形」を指すこととする。
ラネーメ祖語のp-, ph-, b-, m-, f-は比較的素直な対応を見せる。以下、p類とまとめて呼ぶ。漢語音韻学でいう唇音である
祖語 | バート | アイル | 古牌 | タカン |
*p- | bh- | p-, {p'-, ph-} | p-, pr- | m- |
*ph- | bh- | ph-, {p-} | f-, [fr-] | m- |
*b- | bh- | b- | b-, br- | m- |
*m- | b-, {m-} | m- | m-, mr- | m- |
*f- (u以外) | w- | f- | f-, fr- | m- |
*fu- | h-, ∅- | h- | [f-], fr- | m- |
ラネーメ祖語のt-, th-, d-, n-も比較的素直な対応を見せる。以下、t類とまとめて呼ぶ。漢語音韻学でいう舌頭音である
祖語 | バート | アイル | 古牌 | タカン |
[*t-] | d- | t-, t'- | t-, tr- | t- |
[*th-] | dh- | th- | [t-, tr-] | [t-] |
*d- | dh- | d- | d-, dr- | t- |
*n- | n- | n- | n-, nr- | n- |
ただし、口蓋化が起きてz類に合流する例が少数ある。同一の単語であっても、口蓋化するかどうかは言語によりまちまちである。
祖語 | バート | アイル | 古牌 | タカン |
[*t-] | zu | tiu | tiu | |
*tiq | dí | chesi cf. tisi | tsvh | ti |
タカン語のtiは現在は/tɕi/であるが、タカン語のz類の反映であるc-とは異なるため、これは規則的にt類と分類し、例外扱いしない。
ラネーメ祖語のz-はアイル語で3種類の反映形がある。これがアイル語内部での変化なのか、それとも祖語の何らかの差異を反映したものなのかは判断がつかないため、ここでは先例に合わせてz-を1種類立てるだけとする。
祖語 | バート | アイル | 古牌 | タカン |
*z- | z- | ch-, z-, {c-} | ts-, {tsr-} | c- |
ラネーメ祖語のk-, kh-, g-, gr-, ng-は、規則的だが(現状の再構音に照らし合わせた場合)奇妙な対応を見せる。また、k-とkh-はアイル語では合流し、バート語でも多くがgh-となって合流するため、祖語の帯気の有無を確認できない場合が多い。*kuranについては後述する。サンプル数が1しか無いものについては赤強調を施す。
祖語 | バート | アイル | 古牌 | タカン |
*k- | k-, gh- | k- | k- | k- |
*kh- | kh-, gh- | k- | k- | k- |
[*k-, *kh-] | k- | kr- | k- | |
*g- | g- | g-, gr- | [k-] | |
*gr- | ng- | gr- | [k-] | |
*ng- | n- | ∅- | k- |
ラネーメ祖語で今までl-として表記されていた音韻だが、子孫言語での反映形が少なくとも2つの大きなグループに割れることが確認できるため、l₁-とl₂-として表記する。また、バートで単一の形rúṣで現れ、「アイル語utu古牌ngut」「アイル語lutwu古牌lru」の2種類の反映形のある語があり、前者は後述するr₁-と反映形が同じであるため、後に部分的にr₁-に合流することとなる音として仮にl₃-を立てる。l₃-がl₁-やl₂-と異なる音であったかどうかの判断は行わない。
祖語 | バート | アイル | 古牌 | タカン |
l₁- | l- | l- | l- | |
l₂- | l- | ∅- | ng- | ∅- |
l₃- | l- | lr- | ||
l₃- > r₁- | r-[, ∅-] | ∅- | ng- | ∅- |
なお、他に留意すべき点として、フラッドシャー語を経由したリパーシェ伝統文字名において、*l₂umiはlemiとなるが*l₁er₁qはerlとなる、というのがある。アイル語などでの反映形と逆であるため、説明が必要である。
また、「アイル∅-、古牌ng-」として現れる音としては他に*r₁と*0₁があることにも注意が必要である。
l類と同等の議論により、ラネーメ祖語で今までr-として表記されていた頭子音を3つに分割し、ゼロ子音とされていた頭子音を2つに分割する。とはいえ、l₁-とl₂-の場合とは異なり、分割する根拠が非自明なので、下に解説を加える。
祖語 | バート | アイル | 古牌 | タカン |
r₁- | r-, ∅- | ∅- | ng- | ∅- |
r₂- | h-, r- | h-, h^- | h-, hr- | ∅- |
r₃- | ∅-, h- | ∅- | ∅- | ∅- |
0₁- | h- | ∅- | ng- | ∅- |
0₂- | ∅- (h-) | ∅- | ∅- | ∅- |
まず、r₂-はアイルや古牌でh-で反映される形という点で他と大きく異なる。
0₁-と0₂-については、祖語0-始まりのうち古パイグ∅-であるものは一例(伐hína)を除いてバートでも∅-で現れるため、それを反映するために分けておく。とは言え、0₁-に確実に分類されるのは*aimq→伐hem, 伐hemúḷ, 古牌ngaemと(他に分類の仕方がない)iinq→古牌nginぐらいであり、伐hínaも相まって分割の根拠が少し薄い。
r₁-とr₃-の分割は、祖語*r-のうちバート語でr-で現れうるものは古パイグでは必ずng-であり(なおサンプル数1)、逆に祖語*r-のうちバートでh-として現れるもの(なおこれもサンプル数1)は古パイグでng-として現れないことから、念のため分割しておく。
なお、ここではパイグの∅-とng-の対立を分割の根拠としているが、一方でp-とpr-などについては同一視しているという非一貫性がある。更に、上記の対応表から明らかな通り、現状ではr₃-と0₂-の対立を子孫言語の情報から復元できないという問題もある。
結論としては、r₂-が他と別グループとなるのは異論が無いとして、それ以外については
A: 「全て異なる音である」説
祖語 | バート | アイル | 古牌 | タカン |
r₁- | r-, ∅- | ∅- | ng- | ∅- |
r₃- | ∅-, h- | ∅- | ∅- | ∅- |
0₁- | h- | ∅- | ng- | ∅- |
0₂- | ∅- (h-) | ∅- | ∅- | ∅- |
B: 「r₃-と0₂-は同一である」説
祖語 | バート | アイル | 古牌 | タカン |
r₁- | r-, ∅- | ∅- | ng- | ∅- |
r₃- ~ 0₂- | ∅-, h- | ∅- | ∅- | ∅- |
0₁- | h- | ∅- | ng- | ∅- |
C: 「r₃-と0₂-は同一であり、r₁-と0₁-も同一である」説
祖語 | バート | アイル | 古牌 | タカン |
r₁- ~ 0₁- | r-, ∅-, h- | ∅- | ng- | ∅- |
r₃- ~ 0₂- | ∅-, h- | ∅- | ∅- | ∅- |
D: 「既存の分類の通り、r₃-と同一なのはr₁-であり、0₂-と0₁-が同一である。パイグの反映が揺れるのはp-とpr-の揺れと同様であり、祖語に持ち込むべきではない」説
祖語 | バート | アイル | 古牌 | タカン |
r₁- ~ r₃- | r-, ∅-, h- | ∅- | ∅-, ng- | ∅- |
0₁- ~ 0₂- | ∅-, h- | ∅- | ∅-, ng- | ∅- |
E: 「r₃-, r₁-, 0₂-, 0₁-が全て同一である」説
祖語 | バート | アイル | 古牌 | タカン |
r₁- ~ r₃- ~ 0₁- ~ 0₂- | r-, ∅-, h- | ∅- | ∅-, ng- | ∅- |
などの様々なパターンが考えられる。とは言え、一度細分化しておけば後でまとめるのは簡単なので、ここでは一応この5つに分割しておくこととする。
ラネーメ祖語c-, cr-, s-, sr-, sl-, slj-, x-はカオスである。そんなに規則的でもないし、対応も奇妙である。一応体系化を試みたものが以下の通り。サンプル数が1しか無いものについては赤強調を施す。
祖語 | バート | アイル | 古牌 | タカン |
*c- | ṣ- | c- | sr- | |
*cr- | c- | c- | sr- | |
*s- | s- (ṣ-) | s- | z- | |
*sr- | c-, s-, ṣ-, (r-) | s- | zr- | |
*slj- | ṣ- | ci-, sh-[, x-] | sri- | c- |
*x- | x- | sh- | c- | |
c- | s- | |||
c- | z- | |||
x- | shr- | |||
s^- | z- | |||
*sl₁- | s- | ∅- | c- | |
*sl₂- | s- | sr- | c- | |
*sl₃- | sh- | c- |
感情:「は?」「は?」「*sl₃-は*slj-でいいでしょ」「*sl₁-と*sl₂-、地味に他のと統合できないので笑う」「*sr-のバート4種類あるの何なん?まあcákíkúḷとsakkáとrakkúḷがあるからしょうがないけどさ」
これについては、とりあえず解釈することを今の段階では諦めておく。
祖語の*'-と*q-の振る舞いは、言語によって差がある。簡単に言うと、脱落するかしないかである。アイルと古牌からでは'とqを区別することができないが、タカンでは*q-は残り*'-は落ちるので判別できる。ちなみに、「人」のタカン音はもともとこの規則に合わない「あす」だったのだが、使用例が無かったのでリパコール送りされ「すか」に改定された。バートでは*q-がá-で現れることが今のところないが、ただの偶然かもしれない。
祖語 | バート | アイル | 古牌 | タカン |
*q- | a- | a- | 脱落 | a- |
*'- | á-, a- | a- | 脱落 | 脱落 |
なお、「アイル語で残存、古牌で脱落」にはe-, i-, o-, u-で始まるパターンもある。タカンで残る傾向があるかもしれない(藍inusi、タカンinuci;藍ohi、タカンoki)ので、*jq-とか*wq-とか*qw-とかなのかもしれない。知らんけど。
以下のやつはよく分かりませんでした。ちなみにアイルのr-始まりは全部ここに入る。
バート | アイル | 古牌 | 個数 |
∅- | r- | ∅- | 1 |
r- | l- | 2 | |
ng- | r- | 1 | |
f- | h- | 2 |
*CVrV-の形に該当する祖語形としてairy, morq, furoo, pqra, lerq, kuran, ’tqram がある。
[ここに考察が入る]
結論として、pqra→puraとしてやって、furoo, pura, lerqはr₁-、airyとmorqはr₂-、kuran と’tqramはr₃-としてやると、
という規則が見いだせる。
さて、ここで使ったタカンuo「墨」だが、よく考えてみるとこれはおかしい。祖語は*furooなのだから、これのタカンでの反映形はm-であるはずだ。ということでこれは借用音でなければいけない。バートからの借用の説も立ったが、タカン語牌音慣用音ということになった。
そのもとでタカンka, ka-lu「筆」を見てみると、これはパイグ語音とみなしても全く無理のない音であることがわかる。ということでタカン語牌音古音ということになった。
これにより、タカンでの語中rは「一貫してkになる」と説明がつけられる。
ちなみに、*kuranの-nって子孫言語に全く痕跡が見られないんですが…おっと誰か来たy
今回使ったデータは以下の通り。
[ここに表が入る]
作業に使ったGoogle Spreadsheetはこちら
「裁」に要修正。古牌拼はshiuhではなくshriuh。また、バート音がṣíyáúḷと確定する。
これにより、c類の表は以下のようになる。
祖語 | バート | アイル | 古牌 | タカン |
*c- | ṣ- | c- | sr- | |
*cr- | c- | c- | sr- | |
*s- | s- (ṣ-) | s- | z- | |
*sr- | c-, s-, ṣ-, (r-) | s- | zr- | |
*slj- | ṣ- | ci-, sh-[, x-] | sri- | c- |
*x- | x- | sh- | c- | |
ṣ- | x- | shr- | ||
c- | s- | |||
c- | z- | |||
s^- | z- | |||
*sl₁- | s- | ∅- | c- | |
*sl₂- | s- | sr- | c- | |
*sl₃- | sh- | c- |
無事*kuraになった。経緯はメイン記事の方に書いた。
「刀」「弓」が作られ、アイルng-、古牌gr-はバートでgh-と確定。
よってk類の表は次のようになる。
祖語 | バート | アイル | 古牌 | タカン |
*k- | k-, gh- | k- | k- | k- |
*kh- | kh-, gh- | k- | k- | k- |
*k-, *kh- | k- | kr- | k- | |
*g- | g- | g-, gr- | [k-] | |
*gr- | gh- | ng- | gr- | [k-] |
*ng- | n- | ∅- | k- |
*lerqはアイルではleraではなくlekaだった。ということで結論が変更になる。
新結論:pqra→puraとしてやって、furoo, puraはr₁-、airyとmorq, lerqはr₂-、kuran と’tqramはr₃-としてやると、
あと、「耳」は藍loruaで牌lruahなので、*l₁or₁-のような形を立てるとそれっぽい。
古牌iht、j.vの勘違いにすぎなかったのでlihtに戻った。結果として、
が立った。
さて、実はアイルrを生む声母(上3つですな)は既存では設定されていなかったりする。祖語でrで転写されるやつは結局フリッチ系統の、口蓋垂とかそっち方面の音で(まあバートで部分的に歯茎ふるえ音になるけど)、アイルでは落ちたりhになったりするやつなので、アイルrを生むのはまた別の音である必要がある。
ということで、仮の転写としてギリシャ文字のρを用いておく。対応は次の通り。
祖語 | バート | アイル | 古牌 | タカン |
*ρ- | ∅- | r- | l- |
*子音+rは、現状*crophi、*crqi、*dradq、*graugrau、*srakkq、*srauに見られる。しかし、この「子音+r」は意外と*rとの結びつきがないのではというお話。むしろ、バートで*d+*rとして現れる*dradq以外は、*c → c₁、*cr → c₂、*g → g₁、*gr → g₂、*s → s₁、 *sr → s₂としたほうが良いのではないかと提案する。
バートを見るに*c-がそり舌方面で*cr-が/s/方面だったりしないんですかね…と思ったが、よく考えたらṣの起源は必ずしもそり舌ではないんだった。バート語考察の31-2.に書いてあるとおり、
cun^laとかsaphakuとかはもともと/ʃ/であり(当時は/ʃ/はṣと書かれていたのだなぁ)、nimsluなどはṣlと書かれ/ʂ ~ ʂɻ/だったのでは。後に/ʃ/と/ʂ ~ ʂɻ/は合流し/ʂ/となったが、-ṣloでは/ʂɻ/であり続けた。後に綴り字が整理され、ṣl /ʂ/ は同音でありより単純である綴りであるṣ /ʂ/ と書かれるようになったが、/ʂɻ/である-ṣloはそのまま残ったのでは。
みたいな感じである。いずれにせよ、*rで表記されるべき理由が見当たらない。*c₁も*c₂も古牌ではsr-という点がこれにさらに拍車を掛ける。
祖語 | バート | アイル | 古牌 | タカン |
*g- | g- | g-, gr- | [k-] | |
*gr- | gh- | ng- | gr- | [k-] |
*ng- | n- | ∅- | k- |
いやさすがにこれはアでしょ。
ということで軽く考えて2018年6月13日にSYと話してみた案として、こういうのがある。
祖語 | バート | アイル | 古牌 | タカン |
*g- | g- | g-, gr- | [k-] | |
*ŋ- | gh- | ng- | gr- | [k-] |
*gqn- ~ *gn- ~ *ŋn- ~ *kqn- ~ *kn- | n- | 「四」は一二三からの類推 | ken- |
要するに、またこっそりとタカンを改定するのである。ちなみに、*ŋn- > n-はラテン語とか、*kn- > *n-は英語とかがある。
なお、数詞間の類推の例としては、現世だと
というのがある。
さて、「四」が一二三からの類推という説は「五」に関しても有利なのだが、実はこれは現代パイグ語のお話であり、古牌で考えると声母が合わないという問題がある。案は二つあり、
前者に関しては、無矛盾的に導入しやすく、かつ後の接頭辞n-の発展も説明しやすい。
後者については、祖語での声母を考えねばならないという面倒があるとともに、*sl₁qnaが果たしてn-に化けてくれるのか(というか、くれなさそうなので、先に類推が起き、その後で接頭辞化したとするしかなさそう)という話がある。
SY「冠声母にしましょう」
ということでレッツ改竄。ついでにタカンも「けなむ」に。
なお、これのおかげで、*sl₁を滅ぼして*sl₂に合流させてやることができる。
祖語 | バート | アイル | 古牌 | タカン |
*sl₂- | s- | sr- | c- | |
*sl₃- | sh- | c- |
祖語 | バート | アイル | 古牌 | タカン |
*g- | g- | g-, gr- | [k-] | |
*ŋ- | gh- | ng- | gr- | [k-] |
*gqn- ~ *gn- ~ *ŋn- ~ *kqn- ~ *kn- | n- | ken- |
祖語*l₂umiは藍umiの説明ができるが、皇「うむ」の説明ができない。「む」が-mだと考える(cf. たかむ)と、*l₂umを立てればいいという説が出る。
藍nyautu, 伐nautuである。藍nyに対応するのは語中では伐-ṇ-だが(cf. 藍cunya, 伐ṣiṇṇa)、バートでは語頭にṇが来ずにnになる。
ついでに、バートの語中ṇについて考えてみよう。今の段階では、
祖語 | バート | アイル | 古牌 | タカン | 例 |
*-^ng- | -ṇ- | -g-, -ng- | -k | -g- | bhoṇau:pogau, bháṇúḷ:pwugo:mug-u, *ka^nga:káṇa:kaga:kak, *sai^ngq:seṇa:saingoai |
*-^nl- | -ṇ- | -ny- | *cu^nla:ṣiṇṇa:cunya |
6月21日の時点で、SYがタカンに実装したい助動詞として、
を提案した。
それに対するj.vの返答は以下の通りである。
janúl につ, litか…ふむ 祖語*ρ- 未規定なので逆にアリ *ρ- 入 ídúḷ rita liht SY「*ρ-はlで入って濁音なのでn」 bohúl(本動詞「もうる」なので面白い、と) cákíkúḷ
ということで、「*ρ-はlで入って濁音なのでn」となった。なおこの「濁音」概念はちゃんとまとまった資料が公開されていないので、SYをせっつかねばなのである。
SY「タカンって*l-は全部ゼロなのか、ということは『清』ってインとかなのか。ニンとかそっちっぽいイメージだったが」
j.v「えーと『清』は*l₁-なので未定ですね。しかもバート・アイル・古牌でどれもlになる一番lっぽいl。」
SY「じゃあn-でいいか」
ゆえに
祖語 | バート | アイル | 古牌 | タカン |
l₁- | l- | l- | l- | n- |
l₂- | l- | ∅- | ng- | ∅- |
l₃- | l- | lr- | ||
l₃- > r₁- | r-[, ∅-] | ∅- | ng- | ∅- |
となる。
*ŋ-って本当にアイルn-にならないんですかね。北京音になかったっけそういう例。
と思って調べてみたら「在北京音系中,疑母在開口呼、合口呼與撮口呼中爲零聲母,少數齊齒呼(牛逆虐擬等)為[n]。」とのこと。んーじゃあ*ŋn-をそこまで排除するものではないか。
j.vが出した提案を見つけられる限り発掘しにいく。
まずGoogleドキュメント。
次に、パイグで第一音節がシュワーのときその音節が落ちるという話に合わない語形について。*'tqnu
や *xqmo
を上記では例外として述べているが、
*'tqnu
ではなく燐字海*tunq
を採用して清声集にも載せていること(ちなみに、*'tqnu
はアイルでの実際の語形が語頭にa-を伴っていないという二重の泣き所がある)*xqmo
も*xemo
で矛盾がなさそうなんよな(*fuepq
が短シュワー、*ler₁q
が長シュワー)。他のシュワーの例を見ると、un1 は*slqnaの直接の子孫でないのでカウントしなくてよく、しかもn-という接辞を生んでいることからも逆に「シュワーであって、落ちた」とすると説得力がある。*tqtq
> tet, *qmq
> am は「シュワーしかなかったらinitial stressの原則」と考えれば自然(cf. qmq + qmq → qmamq → ma1.pk)。ということで*xqmo
を仮定するとこれのみが例外で、しかも*eでないことを支持する子孫言語はない。とりあえず「月」についてはもう燐字海も*xemoにした。
祖語表記が*ngamなのだから、素直に/nəgam/と読むのが正解ではなかろうか。だってラネーメ祖語の/ŋ/って^ngじゃん。アイルは/g/の喪失ですよ。だって母音に挟まれた/g/とか落ちやすいじゃん。
タカン「なが」「ながむ」で行きましょう。