boríṣán báni
現代バート語の古めの表記。borúḷ は「〜に由来する」という意味であり、つまり boríṣán báni は直訳すれば「来歴の文字」、要するに「語源綴り」ということ。
gháyo
大文字で転写する。歴史的経緯の情報を含み、それだけでは現代音を必ずしも読み取れないため、あくまでそこに「美しさ」を流し込んで完成形とするための「鋳型」とみなされている。
母音字
矢印の先には、無標のときの行き先を書いておいた。
| I
→ i |
|
U
→ u |
Í
→ í |
|
Ú
→ ú |
|
|
|
É
→ e |
|
Ó
→ o |
|
|
|
È
→ ai |
|
Ò
→ au |
|
(無表記)
→ a |
|
|
Á
→ á |
|
Ъ: 母音のないことを示す母音字。
子音字
赤背景は外来語
矢印の先には、無標のときの行き先を書いておいた。
| P
→ p |
T
→ t |
Z
→ z |
K
→ k |
ʔ
→ Ø |
| F
→ p |
C
→ c |
X
→ x |
H
→ h |
|
| B
→ bh |
D
→ dh |
|
G
→ gh |
|
| V
→ bh |
S
→ s |
R
→ r |
| M →
m |
N →
n |
Ɲ →
ṇ |
Ŋ →
ṇ |
|
| W →
h |
L →
l ~ ḷ |
J →
j |
|
|
長子音記号 Q
子音字の前に置いて、直後の子音を伸ばす。日本語学などで用いられる促音モーラの表記にかこつけて Q を転写に用いる。
借用語マーカー「:」
借用語の直前に置く。ヒッタイト楔形文字には Glossenkeil という「ルウィ語などからの借用語の直前に置く記号」𒑱 があり、これの伝統的な transliteration がコロンであるので、同等の機能を持つ記号を我々もコロンで転記することとする。
gháyo の字を並べる際の制約
- 長子音記号 0 個か 1 個
- 子音字 1 個
- 母音字 0 個か 1 個
をこの順に並べることで、1 つの「視覚的音節」が得られる。
「視覚的音節」を並べることで文が構成される。借用語マーカーなどの符号は単一の「視覚的音節」を分断することがないように置く。
eghibhát
石に彫られていたときの伝統的な書記体系。
大まかには gháyo と同じだが、「F と V の区別」「Ɲ と N と Ŋ の区別」をせず、長子音記号 Q を表記しない。借用語マーカーはあった。
hámí
「鋳型」gháyo に、「美しさ」を流し込んで完成形とすることで、現代音を表すのに必要な情報が揃う。
転写では、一貫して下につく記号として表せるように、IPA や extIPA などの記号を援用して以下のように転写することとする。
| lowered |
◌̞ (U+031E) |
| advanced |
◌̟ (U+031F) |
| retracted |
◌̠ (U+0320) |
| strong articulation |
◌͈ (U+0348) |
| weak articulation |
◌͉ (U+0349) |
| 短い鼻音への縮約 |
◌Ъ◌ |
| 長い鼻音への縮約 |
◌Ъ◌ |
| 短い噪音への縮約 |
◌Ъ◌ |
| 長い流音への縮約 |
◌Ъ◌ |
下線および波線が引けない環境下で hámí を転写するためには、
- 短鼻音括弧 [◌Ъ◌] (U+005B および U+005D)
- 長鼻音括弧 〚◌Ъ◌〛(U+301A および U+301B)
- 短噪音括弧 ⧘◌Ъ◌⧙ (U+29D8 および U+29D9)
- 長流音括弧 ⧚◌Ъ◌⧛ (U+29DA および U+29DB)
を用いる。
具体例
boríṣán báni は非常に歴史に引きずられているため、これを使うと同根語や関連語の間の関係が見出しやすい。
後置格/無格 ṣaghi「上」と主格 ṣá「上が」
このように、boríṣán báni で書くと、主格 ṣá と後置格/無格 ṣaghi が同じ語であることが分かりやすい。
後置格/無格 bhoghi (正書法上は bhogi)「色」と主格 bhog「色が」
このように、boríṣán báni で書くと、主格 bhog と後置格/無格 bhoghi (正書法上は bhogi) が同じ語であることが分かりやすい。
lom「三」と ṣánom「八」
このように、boríṣán báni で書くと、数詞 ṣán「5」と数詞 lom「3」を合わせたものが数詞 ṣánom「8」であることが分かりやすい。
com「どの?」と k「もの」と ká「もの(複数)」と coṇá「どれ?」と corajúḷ「どのようである?」
このように、boríṣán báni で書くと、疑問名詞 coṇá「どれ?」は形式名詞 k「もの」に複数語尾 -á をつけ疑問連体詞 com「どの?」で修飾したという構成であることが見てとれるとともに、バート語の複数接辞 -á
とパイグ語の複数接辞 ge【等】との間の関連も窺い知ることができる。さらに corajúḷ が com + cajúḷ であることも見えてくる。
なお、com 自身、アイル cu に対応する語に属格語尾を付けた形に由来すると想定されるが、CÓ が単独で例証されないためか、com を CÓʔ͉Ó͉MЪ と綴ることはしない。
変幻自在な唇音
このように、boríṣán báni で書くと、
- バート語 bhátúḷ は現代リパライン語 phertars と関連する
- バート語 codhi はパイグ語 cuop2 と関連する
といったことが分かりやすい。
リパライン語からの早期借用
このように、boríṣán báni で書くと、
- バート語 bháṇajúḷ は現代リパライン語 fenxe に相当する語の早期借用
- バート語 bhauṣ は現代リパライン語 fafs に相当する語の早期借用
であることが分かりやすい。
強意の接頭辞 naun-
このように、boríṣán báni で書くと、
- パイグ語 kaik【戦】と同源の kagh- という語根に強意の接頭辞 naun- がついた動詞が nauṇaghúḷ「争う」、それの命令形が nauṇá「争え」
- パイグ語 i2【反】と同源の ij- という語根に強意の接頭辞 naun- がついた動詞が naunijúḷ「反撃する」
- 名詞 díl「串」と同源の dil- という語根に強意の接頭辞 naun- と緩衝語尾 -or- がついた動詞が naunilorúḷ「刺す」
といったことが分かりやすい。
nautu
このように、boríṣán báni で書くと、
- アイル nyautu からも見てとれるように、基底としては //ɲawtu// を持っていると見做せる
- バート語 nautu は語頭制約により //ɲ// が前進したもの
- バート語 líṇaṇauṭu は ṇ に引きずられて t が ṭ へと後退したもの
ということが分かりやすい。
逆接の呼応構文 cun ... ja と逆接の文接続詞 ṣiṇṇa
このように boríṣán báni で書くと、もともとは呼応の副詞であった cun と ja がくっついて ṣiṇṇa「しかし」を形成したことが分かりやすい。
なお、U̟ と綴るべき [ɨ]
はこの語ぐらいしかない。cuṇṇa として一語化したのち、頻用であるがゆえに舌を「前 (c) → 後ろ (u) → 中間 (ṇ)」と動かす動作が省略されたことでできた例外的な音形である。
kúcujúḷ「黄色い」、kujacú「黄色」、kúcú「黄色;黄色であれ」
このように、boríṣán báni で書くと、この語形変化が j ~ ja (JЪ ~ J) の交替に由来することが一目瞭然である。
bohúḷ「行く」、bomohúḷ「行くつもりである」、bohabohúḷ「行くつもりである」、janúḷ「生じる」、jamohúḷ「出ていく」、jammohúḷ「外出する」、janabohúḷ「生じる予定である」
cahúḷ「捕まえる、せきとめる」、cauzem「捕まえろ、せきとめろ」、cáwaṭaim「サーワタイム」
このように boríṣán báni で書くと、
- アイル語 cwaho に対応する「つかまえる・とらえる」の方を綴るときは W で
- アイル語 cahu に対応する「せきとめる」の方を綴るときは H で
綴ることができる。この H と W の書き分けに語源的根拠は特にないが(ともにアイルの -ah- の部分が -ah- 語幹になっているだけであるのだから)、同音異義語を書き分けることができるというのは便利である。
母音 + l と 母音 + w の交替
このように、boríṣán báni で書くと、
- bhauk が現代リパライン語 ferlk に相当する語の早期借用であること
- bhauya が現代リパライン語 falvit に相当する語の早期借用であること
- pautawauta が現代リパライン語 falvelta に相当する語の早期借用であること
- nínaccú のような「名詞化第二」というのは、かつて不定詞が -ú / -úlema という曲用をする名詞だったことによるものであり、
- 本来の主格形の子孫として、名詞化第二 -ú が残存
- -úlema が-ÚLЪʔEM ( -úl ema) として「分かち書き」されるのが定着
- そいつとの類推で、不定詞の主格も -ÚLЪ と書かれ -úḷ と発音されるようになる leveling が定着
- 現代の丁寧な正書法では ema が後続する場合も -úḷ ema と綴る
という経緯を有していること
が分かりやすい。
長い l を生む現象
このように boríṣán báni で書くと、
- zau に対してアイル liwo に相当する形を付加させたものが zallo- であること
- 迷惑幹 zaman- に 一人称受動終止詞 -lo がついたものが zamallo であること
が分かりやすい。
hámí の詳細
下につく記号によって音をどう変えるか
| unmarked |
lowered | advanced | retracted | strong art. | weak art. |
|
◌̞ (U+031E) |
◌̟ (U+031F) |
◌̠ (U+0320) |
◌͈ (U+0348) |
◌͉ (U+0349) |
| P → p |
|
|
|
P͈ → ph |
|
| B → bh |
|
|
B̠ → dh |
B͈ → b |
B͉ → h |
| M → m |
|
|
|
M͈ → b |
|
| F → p |
|
|
|
F͈ → ph |
|
| V → bh |
|
V̟ → y |
|
V͈ → w |
|
| C → c |
|
|
C̠ → ṣ |
|
|
| S → s |
|
|
|
|
|
| Ɲ → ṇ |
|
Ɲ̟ → n |
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|
|
| X → x |
|
|
|
|
|
| Z → z |
|
|
|
|
|
| T → t |
|
|
T̠ → ṭ |
|
|
| D → dh |
|
|
D̠ → ḍ |
D͈ → d |
|
| N → n |
|
|
N̠ → ṇ |
|
|
| L → l ~ ḷ |
|
L̟ → j |
|
L͈ → w |
L͉ → ʕ |
| R → r |
|
|
|
R͈ → ṣ |
|
| K → k |
|
|
|
K͈ → kh |
|
| G → gh |
|
|
|
G͈ → g |
G͉ → ʕ |
| Ŋ → ṇ |
|
|
|
|
|
| H → h |
|
H̟ → j |
|
H͈ → w |
|
| J → j |
|
|
|
J͈ → y |
|
| W → h |
|
W̟ → y
|
| W͈ → w |
W͉ → (音節を 1 つ潰す) |
| ʔ → Ø |
|
|
|
ʔ͈ → h |
ʔ͉ → (音節を 1 つ潰す) |
| Ъ → Ø | | | | | |
| Á → á | | | | | |
| É → e | É̞ → á | | | | |
| I → i | | | I̠ → ɨ | | |
| Í → í | Í̞ → e | | Í̠ → ɨ́ | | Í͉ → (a)jЪ |
| U → u | | U̟ → ɨ | | | U͉ → a |
| Ú → ú | Ú̞ → o | | | | Ú͉ → á |
| Ó → o | Ó̞ → á | | | | Ó͉ → (a)wЪ |
| È → ai | È̞ → á | | | | |
| Ò → au | Ò̞ → á | | | | |
講評
-
「顎を下げる」という操作を表す lowered は純粋に vocalic な記号であり、母音に付着してより開いた母音を生み出す。
- 長い狭母音は、もう一段階広い長母音になる。
- それ以外の長い母音は、全て á になる。
-
「舌を前に進める」という操作を表す advanced は consonantal な記号である。ただ、ṣiṇṇa の例からも見て取れるように、両隣の子音が舌の操作を行っている際に、母音がそこに巻き込まれることもある。
-
「舌を後ろに下げる」という操作を表す retracted も、これまた consonantal な記号である。ただし、 i/í は反り舌音に必ず巻き込まれるので、そのことを明記する用途にも用いる。
-
strong articulation は純粋に consonantal な記号であり、母音字には使わない。
無声音については「p/k を強めたものが ph/kh」、有声音については「bh/gh を強めたものが b/g」という直感があり、それを反映した振る舞いとなっている。
- 特に b は分布がかなり限られている。
- 「補助動詞 -(a)boh-」を含む語頭 M 群は当然 M の strong articulation と見なすことになる。
- 男性終止詞はなぜか -(a)bá ではなく -(a)bhá
であるので、三人称男性 -(a)bát [名詞化], -(a)báta [過去分詞], -(a)báṣlo [未来分詞] は M 群であるとはできず、B の strong articulation と見なすべきであると分かる。
- 三人称未来分詞 -(a)hobá [中性受動], -(a)zebá [女性能動] も同様に B の strong articulation と見なすべきであろう。
一方で D は dh よりも d のほうが無標であるようには思えるが、B/G との一貫性のために bo_bá という書記体系の上では「無標が dh」となっている。
-
weak articulation は、語源的な関係を有する(と、少なくとも信じられている)様々な散発的な縮約や、ともすれば語彙的 (lexical)であるような音の変化などをカバーするための記号である。話すべきことが多いので weak articulation については一旦セクションを切る。
weak articulation
weak articulation の中で、それなりに普遍的な現象と言えるのは G, U, Ú, 強いて言えばあと ʔ くらいのものであろう。
- joya はかつて JÚJU だった。よって JÚ̞JU͉ と綴る
それ以外については、
- B のは属格 -homá, -home
- L のは「光」kád
- W のは「商っている」suúḷ
- Í のは「入る」ídúḷ 周りの縮約
- Ó のは属格 -om 周りの縮約
を扱うためだけにあるようなものである。